■ 現代は人類史上最も平和な時代
日本時間の2月24日にロシアがウクライナに侵攻しました。テロではなく、国家による軍事侵攻などが現代でもあるのかと驚いてしまいます。また、テレビや新聞では、頻繁に殺人事件や児童虐待、いじめ自殺、わいせつ教師、交通事故、テロ、格差の拡大などのニュースが流れています。メディアが発達した影響で、様々な負のニュースを目にする機会が増えました。心温まるニュースは、あまりメディアには登場しないように思います。ネガティブな報道に接していると、社会はどんどん悪くなっているのではないかと感じてしまいます。
そこで実際に世の中は悪くなっているのか、調べてみることにしました。インターネットで検索すると、スティーブン・ピンカー氏の著書「暴力の人類史」(青土社刊)を見つけました。上下巻で1300ページという大著でしたが、意外な事実が明らかになりました。
本書の著者スティーブン・ピンカー氏によると、暴力は歴史的に減少しているとのことです。数千年、数百年、数十年というどの時間尺度で見ても減少しています。また、膨大なデータを解析することにより、家庭内から地域、異なる部族、国家間に至るまで、様々な規模における暴力が減少していると述べています。「長い歳月の間に人間の暴力は減少し、今日、私たちは人類が地上に出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれないのだ」と結論付けています。
■ 暴力の減少の6つの動向
(1) 平和化のプロセス
紀元前5000年から数千年単位で起きたプロセスになります。狩猟採取社会から農耕社会へ、統治機構のない社会から統治機構のある社会への変化を指しています。このプロセスにより、集団または敵対者同士の襲撃や抗争が減少し、暴力死を遂げる人はおよそ5分の1に減りました。
(2) 文明化のプロセス
中世後半から20世紀にかけて生じたプロセスで、主に中央集権国家の誕生と、通商の発達に起因しています。国家は、騎士どうしの縄張り争いを抑止しました。また通商は、人々を奪い合いの関係から両者両得の関係へと変化させました。このプロセスにより、殺人の発生率は10分の1ほどに減っています。
(3) 人道主義革命
17〜18世紀の理性の時代、啓蒙主義の時代に当たります。この時代になって初めて、迷信による殺人、拷問、奴隷制などを廃止しようとする運動が広まってきました。そして、印刷物の増加と識字能力の向上が、その運動を増長しました。人々は印刷物を読み、他人の視点を取得することで、共感の輪を広げていきました。
(4) 長い平和
第二次世界大戦後から現在までを指します。この間、大国間の戦争は長い間、回避されています。
(5) 新しい平和
米ソ冷戦終結後の動向では、3つのタイプの組織的暴力(内戦、集団虐殺、テロ)がいずれも減少しています。
(6) 権利革命
世界人権宣言(1948年)以降に、主にアイディアと人の拡散を通して促進された動向を指しています。特定の人種、女性、子供、同性愛者、そして動物に対する暴力が減少し、それらの権利を擁護する運動が活発化しています。
■ 減少を続けている日本の犯罪
次に日本の犯罪や事故等について調べたところ、大きく減少している事実が判明しました。
・交通事故:1970年前後は16000人以上でしたが、その後減り続け、2020年は2839人でした。
・侵入窃盗(家に入って物を盗むドロボウ):平成元年の23万件から、平成30年には6万件余りにまで減少しています。
・凶悪犯(殺人、強盗など):昭和期には1万5千件、平成の初めには約6000件でした。平成前半に急増した後で減少に転じ、2021年は4900件まで減少しています。
・少年犯罪(刑法犯検挙少年):平成元年には16万人だったが、平成30年には2万3000人にまで急減しています。
・強姦:昭和50年の3704件から減り続け、平成25年は1410件でした。
・自殺:平成3年の1万9875人が、平成13年は3万1755人に増え、令和3年は2万830人となりました。
犯罪や殺人、事故などについて調べてみたところ、大きく減少している事実が判明しました。メディアの報道からは、社会は悪くなっているのではないかと考えていましたが、実際は良くなっていたのです。ただ、自殺がやや増えている点が気になるところです。